2018年06月11日
地球環境
研究員
加藤 正良
私は、平日に休みを取って鎌倉を散策するのが好きだ。お寺でぼんやりするのが好きで、お気に入りは、鶴岡八幡宮の東側1キロメートルちょっと行ったところにある報国寺である。
報国寺
別名「竹の寺」として親しまれているこの寺は、本堂の裏手に竹がうっそうと茂る美しい庭園があることで有名だ。庭園内にはお茶屋もあり、そよ風と竹林とが織りなす自然の和音を聞きながら、抹茶をすするひと時が大好きである。
報国寺の竹林
しなやかでいて強く、さまざまな用途に活用できる竹は、まさに自然からの恵みだ。伝統的な日本家屋には、いたるところに竹が使われている。カゴやザル、花器などの日用品だけでなく、茶道や華道の道具、笛や尺八などの和楽器、竹刀や弓などの武道具にも用いられた。同時に、それらの材料を供給する竹林は、美しい日本の原風景も形作ってきた。
その竹林が、少子高齢化などで所有者を失って荒れ放題になり、里山の厄介者になりつつあるという。
東北大学や長野県環境保全研究所などのグループは2017年、温暖化で竹の生育に適した環境が広がり、里山の管理などに悪影響を与えるリスクがあるとの予測をまとめた。温暖化対策をとらずに今世紀末までに平均気温が産業革命前より4度上昇した場合、東日本では竹が育ちやすい地域の割合が最大で83%に達するという。北限も北海道の稚内市まで拡大する恐れがあるというのだ。
この厄介な竹から、熱や電気を取り出そうという取り組みが始まっている。いわゆるバイオマス発電への活用だ。
近年、再生可能エネルギーの一つとして、「木」に注目が集まっている。最先端のシステムは、木質チップを高温で燃焼させてガス化し、そのガスを燃料に発電機を動かして発電する。電気に加えて燃焼や発電の際に発生する熱を回収し、冷暖房などの空調にも使うこともできるので高効率だ。
竹はこうした発電に使うバイオマス原料には不向きとされてきた。大量のカリウムと高濃度の塩素が含まれているためだ。カリウムは燃焼過程で、溶岩のような「クリンカ」が生成される原因となる。高濃度の塩素も配管などを腐食させ、設備にダメージを与える。
しかし近年、こうした弱点を克服する技術が登場し、竹を燃料とする発電所の建設も進められている。竹は国内に豊富に存在し、成長も速いため入手しやすい。このような活用法が広がれば、エネルギー源としての将来性に期待できる。新たな付加価値が生まれることで、この厄介な、しかし慣れ親しんだ素材が末永く日本文化の中で生き続けていくことを願う。
写真(筆者)
加藤 正良